オリオン税理士法人
不動産の生前対策ケーススタディ

所有者不明の土地に係る法改正


概要

相続登記の申請は、これまで義務ではなかったことから相続登記されずに放置されていた土地が2016年時点で九州の土地面積を超え、2040年には北海道全土に相当する所有者不明土地が発生するとの推計があります。このような所有者不明土地は、公共事業や復旧・復興事業が円滑に進まない、民間での土地の有効活用が困難になる等、社会問題になっています。
 このことから、令和3年4月に不動産登記法の改正が行われ、相続登記が義務化されました。
 改正による、主要項目の内容は下記のとおりです。

1.改正項目

相続登記の義務化

①相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務が生じる

②遺産分割が成立した場合には、成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請する義務が生じる

③正当な理由なく実施しない場合には、10万円以下の過料の対象となる

④令和6年4月1日施行

相続人申告登記の新設

①親族間の紛争等により相続開始から3年以内に遺産分割が成立しない場合には、相続人一人からでも「相続が開始した旨」と「自身が相続人である旨」を法務局に届け出し、登記する制度が義務化される

②相続によって権利を取得したことまでは公示されず、従来の相続登記とは全く異なるものとなる

③相続人申告登記に係る登録免許税は非課税となる

④令和6年4月1日施行

氏名・住所の変更登記の義務化

①登記簿上の所有者が住所氏名を変更した場合は、変更した日から2年以内に変更登記の申請をする義務が生じる

②正当な理由なく実施しない場合は、5万円以下の過料の対象となる

③令和8年4月1日までに施行(具体的な日は今後、政令で定められる)

2.相続土地国庫帰属制度の創設

制度の内容

所有者不明土地の発生を抑制するため、相続や遺贈によって取得した土地について、申請することで、法務大臣の承認により手放し、国庫に帰属させることを可能とする制度

国庫帰属が認められない土地

通常の管理、処分をするに当たり過大な費用や労力を要する土地については原則、対象外となる
例)建物等がある土地、土壌汚染や埋設物のある土地、危険な崖がある土地、境界が不明な土地、担保権などの権利設定された土地、通路など他人も使用する土地

その他ポイント

①国庫へ帰属させるための審査手数料や、承認を受けた場合には負担金(10年分の土地管理費相当の納付)が必要(具体的な算定は今後政令で定める予定)

②相続人以外の者が遺贈により取得した土地については本制度の利用不可

施行日

令和5年4月27日施行(施行日前に相続した土地についても本制度は利用可能)

3.民法の改正

(1)土地・建物に特化した財産管理制度の創設

制度の背景

所有者不明土地・建物や管理不全状態にある土地・建物は、公共事業や民間取引を阻害したり、近隣に悪影響を及ぼす場合があることから、当該土地・建物を対象に個々の土地・建物の管理に特化した財産管理制度が新たに設けられた

制度の内容

①所有者不明土地・建物の管理制度利害関係人が地方裁判所に申し立てることで、当該土地・建物の管理を行う管理人が選任できる
 当該管理人は、当該土地・建物の売却も可能となる
②管理不全状態にある土地・建物の管理
 所有者による管理が不適当であり、他人の権利が侵害され又はそのおそれがある土地・建物について、利害関係人が地方裁判所に申し立てることで、当該土地・建物の管理を行う管理人を選任することができる
 当該管理人は、破損が生じている擁壁の補修工事、ごみ撤去、害虫駆除等も可能となる

施行日

令和5年4月1日施行

(2)共有制度の見直し

制度の背景

共有状態にある不動産について、所在等が不明な共有者がいる場合には、当該不動産の利用に関する意思決定や処分ができないといった問題が生じることから、共有制度全般について見直しが行われた

制度の内容

①共有物を利用しやすくなる見直し
 共有物の軽微な変更は全員の同意は不要となり、持分の過半数で決定可能になる等


②共有関係の解消をしやすくなるための新たな仕組みの導入
 所在等不明な共有者がいる場合には、他の共有者は、地方裁判所に申し立て、その決定を得て、当該持分を取得したり、その持分を含めて第三者に譲渡することができる(裁判所において、持分に応じて時価相当額の金銭の供託が必要となる)

施行日

令和5年4月1日施行

(3)遺産分割に関する新たなルールの導入

制度の背景

相続が発生してから遺産分割がなされないまま長期間放置され、相続が繰り返すと多数の相続人による共有状態になる結果、遺産の管理・処分が困難になる
また、長期間放置された場合、寄与分特別受益に関する証拠等が無くなるため、遺産分割が難しくなる可能性があることから設けられた制度

制度の内容

①被相続人の死亡から10年経過した後に遺産分割する場合には、原則として具体的相続分を考慮せず、法定相続分または指定相続分によって画一的に行うことになる(経過措置あり)


②寄与分や特別受益を主張したい場合には、原則相続開始時から10年以内に家庭裁判所に遺産分割調停等の申立てが必要となる

③ただし、10年経過後も相続人全員の合意があれば、法定相続分によらない分割も可能

施行日

令和5年4月1日施行(施行日前に発生した相続にも適用される)

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