概要
個人が土地や建物といった固定資産を物々交換していく場合、国税庁としては当該固定資産のキャピタルゲインに対する課税のタイミングを逸してしまうことから、交換は原則「譲渡」と考えます。ただし、等価交換等の場合、金銭の授受もなく担税力がないことから一定の要件を満たした場合には、譲渡がなかったものとして課税を繰延べる固定資産の交換の特例という制度が設けられています。なお、交換特例を満たしている場合で交換差金を受取るときは、交換差益について一部課税されます。
(注)共有持ち分になっている土地については、分筆しその持分に応じて単独所有になるよう交換する場合で面積や価額が等しければ、譲渡がなかったものとして、譲渡所得の課税関係は生じません。
適用要件
下記チェック項目が全てYesであれば、固定資産の交換特例の対象になります。
- 交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも固定資産であること
※不動産業者等が有する販売用不動産は棚卸資産であり対象外となります - 交換により譲渡する資産及び取得する資産は、いずれも同種類の資産であること
例)土地と土地、建物と建物というようなケース - 交換により譲渡する資産は1年以上所有していたものであること
※相続等による場合は、被相続人が資産を取得した日から所有期間を計算する - 交換により取得する資産は、交換の相手が1年以上所有していたものであり、かつ交換のために取得したものでないこと
- 交換により取得する資産を、譲渡する資産の交換直前の用途と同じ用途に使用すること
※「同じ用途」とは資産の種類に応じて、土地であれば「宅地」と「宅地」、「田・畑」と「田・畑」等の交換であること、建物であれば、「居住用」と「居住用」、「店舗」と「店舗」、「工場」と「工場」等の交換であることを意味する - 交換により譲渡する資産の時価と交換により取得する資産の時価との差額が、これらの時価のうち何れか高い方の時価の20%以内であること
ワンポイントメモ
交換時の時価は一般的には第三者間の取引で成立する取引価額(正常価格)をいいますが、借地権と底地の交換のように1筆の土地を等分に分筆するケースも散見します。このような場合、通常借地権評価の方が高いため正常価格と乖離した交換となりますが、そのような場合も当事者間のやむを得ない事情や交換に至った経緯等から合理的に算定されていると認められる場合には、当事者間で合意された価額(限定価格)を採用することができることとされています。
課税所得の計算式
(1)交換差益を受領しなかった場合・譲渡所得税は課税されない
(2)交換差益を受領した場合・下記算定方式により一部課税される
交換譲渡資産の時価 – 交換取得資産の時価 = 交換差金

計算事例
Q.
Aさんが所有する宅地甲をBさんの所有する宅地乙と交換するために、令和6年6月に交換契約を締結しました。その際、Aさんの所有する宅地の方が400万円高かったことから、交換差金を受取りました。固定資産の交換特例を利用して申告したいのですが、所得税等はいくらになるでしょうか。なお、交換特例要件は全て満たしています。
- 交換譲渡資産(甲土地)時価:4,000万円
- 交換取得資産(乙土地)時価:3,600万円
- 交換差金:400万円
- 交換譲渡資産の取得費:不明 200万円(譲渡価額の5%)
- 交換譲渡に係る手数料等:100万円
- 交換譲渡資産の保有期間:5年超

A.
①時価差額の判定 | 400万円/4000万円×100=10%≧20% ∴交換特例の要件を満たす |
②交換差金の額 | 400万円 |
③取得費の計算 | (200万円※+100万円)×400万円/(3,600万円+400万円)=30万円 ※交換譲渡資産の取得費 4,000万円×5%=200万円 |
④譲渡所得 | 400万円-30万円=370万円 |
⑤所得税・住民税 | 370万円×20%=74万円※ ※所得税15%、住民税5%(復興特別所得税を除く) |
確定申告添付書類
申告添付書類
- 不動産の場合は譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】(国税庁HPより入手可能)
- 固定資産(土地や建物など)を交換した場合の特例チェックシート・所法58条
- 資産の交換に関する契約書及び領収書等の写し
- 交換譲渡資産及び交換取得資産の交換額の算定根拠を示す書類
- 交換譲渡資産及び交換取得資産の登記事項証明書
- 交換取得資産を交換譲渡資産と同一の用途に供したことを示す書類(賃貸契約書等)
- 交換譲渡資産を購入した時の契約書及び交換譲渡資産の譲渡時の諸手数料等の領収書